生活科教育研究会第26回 全国大会 基調提案
響き合う生活科授業の創造

            大田区立松仙小学校  松村 英司 研究部員

 1、はじめに
 リオデジャネイロのオリンピックで体操団体が金メダルをとりました。その際のインタビューがこれからの学校、求めるべき子どもたちの姿を示していると思いました。
 一人一人が目標に向かって、一人一人の個性が際立った結果、一人一人がリーダーシップをとっている。また、マスコミに対するアピール力がすごいと思いました。
 さて、生活科教育研究会は、生活科が全面実施となる前年の平成3年に発足しました。その後、総合的な学習の時間を研究対象に加えてからも、生活科に込められた初志を大切にしていこうと、会の発足以来の「生活科教育研究会」としいう名称を継承しています。
 全国には、生活科・総合的な学習の時間に関係する研究会が数多く存在します。その中で、生活科教育研究会が果たす役割とは何でしょうか。
 「資質・能力の育成」「アクティブ・ラーニング」「カリキュラムマネジメント」といったキーワードの下で学習指導要領が大きく改訂されようとしている現在、その動向を的確に把握しながらも、本会は、現場での実践を基にして、実践において語られる言葉を大切にしながら、理論を構築したり実践で検証したりすることを大切にしたいと考えます。
 昨年度の第25回全国大会では。新たな研究テーマ『響き合う生活科授業の創造』を設定し、基調提案を行いました。シンポジウム等の中で、多くの皆様からご意見を基にして、今回は次のような内容で、基調提案を致します。
2 響き合う生活科授業とは何か
 響き合う対象として、次の三つを視点としました。
@身近な人 (友達、教師、学校や地域の人、家族、GTなど)
A身近なモノ (主な学習対象、学習環境など)、
B身近なこと (事象、生活科や他教科等での学習経験、生活経験など)

 生活科 授業において、それらの三つと響き合っている子どもの姿については、次のように考えました。
A 対象との関わりの中で心を揺さぶられる経験をし、
B 「こうしたい!」という思いや願いが生まれ、
C 対象への応答をくり返すことにより
D 対象との関わりが深くなっていくこと

 Aの「心を揺さぶられる経験」とは、例えば、発見、驚き、喜び、戸惑い、感動、疑問など、具体的な気付きまではいかないまでも、その萌芽といえるようなことを指しています。
 そのような経験によって、Bのような思いや願いが生まれ、Cといった次の活動が繰り返し展開されていきます。その結果としてDの「対象との関わりが深く」なるとは、例えば、心を寄せて大切にするようになる、親しみや愛着をもつようになる、離れがたく感じるようになる、身近になって一体化するなどが考えられます。
 これら一連の営みを、響き合う生活科授業と呼びます。 
【事例1】「なつとあそぼう!」(生活科・1年)
 園のときに砂遊びの経験があまりなかったアリサ(仮名)は、単元がはじまった頃は、集団から一歩離れたところで、恐る恐る泥団子を作りながら、友達が体全体を使って楽しそうに遊ぶ様子を見ていました。
 翌日、アリサはサンダルを持ってきて、4人ほどの集団の中に入り、泥団子の材料となる泥を友達と一緒にこね始め、こねていくうちにそれ自体が楽しくなったのか、手のひらから腕までを泥まみれにしながら、泥の感触を楽しみ続けました。
 次の時間になると、8人ほどの集団の中で、足湯を作るために穴を掘ったり、堀った土で山を作ったりするようになりました。
 普段仲のよい友達ではなく、同じ目的を共有した友達と一緒に、砂遊びというアリサにとって未知の世界に一歩一歩進み、対象と一体化しながら遊びに夢中になっていく様子が見られました。
 
3、響き合う生活科授業で求められる教師の行為と思考
 1つの授業を造り上げるとき、教師には多様な役割が求められ、特に子どもの思いや願いを大切する生活科・総合的な学習の時間では、教師の役割は複雑になると想定されます。そこで、響き合う生活科授業で求められる教師の役割を3つの「行為」と3つの「思考」に整理しました。
響き合う生活科授業で求められる教師の行為
○デザイナーとしての行為
   響き合う生活科授業が連なった単元や年間カリキュラムなどの大きなデザインを描く
○コーディネーターとしての教師 
   主に一単位時間の響き合う生活科授業の展開を事前に考え、必要な学習環境などを整える
○ファシリテ一夕ーとしての教師
   子どもの活動をみとって即興的に判断し、響き合う関わりが生まれるように、適切な支援する


 行為から思考へ

 思考から行為へ


教師の行為を支える思考
○みとる思考
   子どもの体験の様子や表現した言葉などを的確に把握し、その意味や関係性を解釈する
○みとおす思考
   解釈したことを基にして、この先にどのような学びと育てがあるか想定する
○みさだめる思考
   想定したことを基にして、どのような行為が子どもにとって適切なのかを判断する
【事例2】「防災プロジェクト」(総合的な学習の時間・6年)
 当該校では、各学年の学習課題は全体計画で定められ、学習対象や学習事項、単元の活動計画などは、年度はじめに学年会で相談して決めていきます。前年度の防災単元の生活課題から、@調べる活動をいかに自分事として焦点化しながら進めていくか、A活動の複線化をどのように想定するか、といったことが話題として挙げられ、学年の中で次のような改善策を考えていきました。
 @では、防災に関する知識を調べるにとどまらず、学校や家庭、地域の防災に関する実態を調べる活動を想定しました。また、子どもたちが問いをもって自分事として活動することができるように、複数の災害の写真やデータを提示し、疑問が生まれるような単元の導入を考えました。
 Aでは、防災拠点校としての取組を考えていく活動、学校の避難訓練や防災設備を改善していく活動、地域の消防署の出張所とコラボする活動など、自分の生活と密着しつつ、魅力ある人とかかわることのできる活動をいくつも想定し、単元の活動計画に位置付けていきました。
 このように前年度の成果と課題を基にして改善を図り、目の前の子どもたちの実態や教師の思いや願いに即した単元の活動計画をデザインしていきました。
 単元の最初の授業では、5年のときの「和食プロジェクト」を想定させ、日本の強みについて語らせたのち、逆に弱みについて考えさせるという授業デザインを考えていきました。
 授業者としては、そこで防災へとスムーズに関心が向くと予想していましたが、子どもたちからは、少子高齢化や赤字財政といった多様な意見が出されました。
 そこで、その授業で防災へと関心を向けることを潔く諦め、学年会に持ち帰り、次の授業への手立てを考えることにしました。
 その結果、3つほどの視点を提示してベン図で整理するとどうかとアイディアが出され、子どもたちの思考の流れに沿った活動を展開することにつながっていきました。
4、おわりに
 資質・能力、見方や考え方などから学習指導要領の全体構造が検討され、抜本的な改訂を迎えようとしている今、生活科・総合的な学習の時間に追い風が吹いていることは間違いありません。しかし、普通の学校で行われている生活科・総合的な学習の時間の質はどうでしょうか。
 全国の仲間を増やし、仲間がつながる全国大会を目指し、全体会や分科会の在り方を改善・工夫しました。参会者の皆様とともに、充実した2日間にしていきたいと思います。